訴状


訴  状

 

令和4年12月16日

 

〒930-XXXX 富山県富山市XXXX

 原 告  安田慎(別紙原告目録)

 

〒530-0054 大阪市北区南森町1丁目3番27号 南森町丸井ビル6階

   德永総合法律事務所(送達先)

 電 話 06-XXXX-XXXX

 FAX 06-XXXX-XXXX   

 原告訴訟代理人弁護士 德 永 信 一

 

〒930-8510 富山県富山市新桜町7-38

 被 告       富 山 市

 (処分の取消の訴えについて)

 処分行政庁     富 山 市 議 会

 同議会代表者議長  鋪 田 博 紀

 (損害賠償請求の訴えについて)

 被告代表者市長   藤 井 裕 久

 

 議会決議取消等請求事件

 

 訴訟物の価格 5,100,000円

 貼用印紙の額    32,000円

 

 原告訴訟代理人

     弁護士  德 永 信 一 

 

 

請求の趣旨

 

1 被告富山市が設置する富山市議会が令和4年9月28日付でした別紙決議(以下「本件決  議」という。)を取り消す。 

2 被告富山市は原告に対し、金350万円及びこれに対する本訴状送達の日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 

3 訴訟費用は被告富山市の負担とする。 

     との判決並びに第2項につき仮執行宣言を求める。

 

請求の原因

 

第1 当事者

 1 原告及びその信仰

  ⑴ 原告は、富山市在住の富山市民であり日本国民である。昭和62年に宗教団体である世界平和統一家庭連合(以下「本件教団」という。)に入信し、以来その教義を信仰して生きてきた。

 

  ⑵ 本件教団は、文鮮明を教祖とし、昭和29年に韓国ソウルで設立された「統一原理」を教義とする宗教団体であり、日本における同教義を信奉する信者が設立した宗教団体として、昭和39年に東京都知事から認証を受けて設立された宗教法人であり、礼拝等の儀式、講義等による教義の教育及び伝道による教義の伝播などの宗教活動を行っている。なお、本件教団の当初の名称は世界基督教統一神霊協会であったが、平成27年に現在の名称である世界平和統一家庭連合に変更した。   

 

 2 被告富山市

 被告富山市は、富山県内の普通地方公共団体であり、富山市議会は、日本国憲法93条及び地方自治法89条に基づいて被告富山市に設置された議決機関である。                

   

第2 本件決議及びこれに至る経緯 

 1 本件決議の内容について   

 富山市議会は、令和4年9月28日、令和4年第5回定例議会において、標題を「富山市議会が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)及び関係団体と一切の関係を断つ決議」とする議案(議員提出案第22号)を全会一致で可決した。同決議の内容は、「藤井市長並びに当局は、旧統一教会を極めて問題のある団体として、旧統一教会及び関連団体とは一切関わりを持たないことを決意し表明した。富山市議会も、藤井市長並びに当局と同じく、旧統一教会及び関係団体と今後一切の関係を断ち切ることを宣言する。」というものであった(甲1)。     

 

 2 本件決議に至る経緯について

  ⑴ 安倍晋三元総理暗殺事件とその後の展開  

 令和4年7月8日に起きた安倍晋三元首相暗殺事件の後、殺人事件の容疑者が本件教団の信者の息子であり、「宗教に対する恨み」が動機であったという供述が警察からリークされ、これをマスコミが報道したことから、批判の矛先が容疑者から本件教団に移ることになった。本件教団との係争を抱える全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士たちが、連日のように記者会見やワイドショーなどで高額献金による家庭崩壊といった特殊な事例を取り上げて本件教団を批判し、その被害者の悲痛な訴えを無批判に取り上げるメディアは、やがてこれを一般化し、本件教団そのものが献金詐欺を目的とする反社会的な集団であるかのような印象を与える報道を行うようになった。   

 

 こうしたメディアの偏向報道が繰り返されることによって本件教団に対する一般社会の印象は頗る悪化し、公共施設の利用を拒否されたり、イベントの共催を断られたりするといった社会的な差別ないし排除が進展する事態となった。突然巻き起こった社会的偏見の嵐に晒されることになった原告を含む本件教団の信者たちの多くは、社会の隅で息をひそめるようにして事態の成り行きを見守るほかはなかった。  

 

  ⑵ 岸田文雄総理による自民党総裁としての発言 

 メディアによる偏向報道によって本件教団の印象はますます悪化していった。やがて自民党の国会議員と本件教団や関連団体との接点探しが始まり、ターゲットになった議員及び自民党の対応の拙劣さもあって、それはメディアによる「魔女狩り」の様相を呈し、政権を追い込む政治的スキャンダルへと発展していった。  

 

 メディアの圧力に追い込まれる形で、令和4年8月31日、岸田総理は記者会見で、それまでの自民党と本件教団との関係について否定してきた姿勢を一転させ、自民党の総裁として、所属議員に対して本件教団との関係を絶ち、今後も社会的に問題が指摘される団体との関係を持たないよう方針を出すと発表した。

 

  ⑶ 富山市長の宣言及び富山市議会による本件決議        

 自民党総裁である岸田首相が、党所属の国会議員に対して本件教団との関係を絶つ、とする方針は地方の自民党県連にも通達された。「自民党王国」ともいわれる富山県内の地方議会が、こうした党の方針を色濃く反映させる動きを見せるなか、被告富山市の藤井裕久市長は令和4年9月12日に行われた富山市議会の定例会で、本件教団を「極めて問題のある団体と言わざるを得ない。」とした上で、「過去を振り返り、十分な反省の上に立ち、私の今後の政治活動において旧統一教会およびその関係団体とは一切関わりを持たないことを決意した。また、市としても、旧統一教会および関係団体から主催する行事およびイベントなどへの出席依頼や後援等名義の使用承認申請があった場合、これらには一切応じない。」と宣言した。      

 

 この藤井市長の宣言を受ける形で、富山市議会は9月28日、前述した本件決議を全会一致で可決した。それは「旧統一教会及び関係団体と今後一切の関係を断ち切ることを宣言する。」という極めて強いトーンの決議であり、被告富山市における本件教団信者の政治参加を全面的に排除することを謳うものであった。

 

第3 原告による請願依頼と拒絶

 1 本件決議に対する原告の驚き、動揺、怒り       

 これまで、本件教団の掲げる理想を政治的に実現し、富山をよくするために藤井市長や自民党所属の市議会議員らを応援し、選挙協力に力を尽くしてきた原告は、岸田首相の自民党総裁としての発言、藤井市長の宣言、そして富山市議会による本件決議に接して驚き、その度に激しく動揺し、やがて強い怒りがこみあげてくるのを感じた。「私たち本件教団信者の一票も他の市民と同じ清き一票ではないのか。立憲主義を掲げる民主主義国家である日本において、私たちの信仰を理由とする差別が公然と行われるなんて、そんな理不尽なことがあってよいのか。」と。 

 

 2 原告による請願の依頼   

 原告は現状の理不尽を打破するため、富山市議会に対して件決議の取消し等を求める請願を行うことを決意し、地方自治法124条が要求する紹介議員となってもらうべく、面識のあった複数の市会議員に掛け合ったが、いずれも本件決議を理由に原告の依頼を断ってきた。そこで原告は、富山市議会の代表である鋪田博紀富山市議会議長に対する依頼書(令和4年11月21日付け)をしたためた。それは本件決議等によって本件教団の信者が受けている権利侵害と差別、そしてこれらによる窮状を訴え、その取消等を求める請願を行うにあたり、これに要する紹介議員を引き受けてもらえるよう、その請願書の案を同封して懇請するものであった(甲2)。  

 

 3 鋪田議長からの回答 

 鋪田議長は、原告の依頼に対して、令和4年11月25日付の書簡で、原告の依頼を断ってきた。その理由は、「私は、議長としても議員としても、本会議で決した事項は尊重すべきであると考えており、それは当該決議についても同様であります。」などとするものであった(甲4)。

 

 4 請願と陳情について 

 鋪田議長からの書簡には、なお書きにて、「当市議会では、紹介議員が不要な陳情等についても、議長が必要と認める場合は請願と同様に審議・審査を行っておりますことを、併せてお伝えいたします。」とあった。

 

 しかしながら、請願法による制度的裏付けのない陳情によっては原告の目的が果たされないことは明らかであった。請願法5条は、「この法律に適合する請願書は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない」と定める。本件決議が全会一致で可決されたことを思うと、制度的な裏付けのない陳情によっては、そもそも受理されないか、受理されたとしても真摯な審議に基づく誠実な処理がなされることは期待できないと思われた。    

 

 5 小括     

 原告による請願の依頼・懇請が、面識のある市議会議員及び鋪田議長のいずれからも本件決議の尊重を理由に断られたことは、本件決議によって原告の民主的な政治参加の権利である請願権が侵害されたことを意味する。 

                

第4 原告が被った損害

 1 本件教団の信者である原告は本件決議の結果、富山市議会に対する請願権を侵害され、その信仰と信条とを理由とする不当な差別的取扱いによる主観的な権利侵害を被った。  

 

 2 前項の主観的な権利侵害によって原告が被った精神的苦痛に対し、これを金銭の交付によって慰謝するには300万円が必要である。  

 

 3 前各項の請求を実現するには弁護士に訴訟委任することが不可欠であり、そのために要する弁護士費用は50万円を下らない。

   

第5 本件決議が日本国憲法に違反するものであること            

 1 請願権の侵害について

 請願権とは、国や地方公共団体の機関に対し、それぞれの職務にかかわる事項について、苦情や希望を申し立てることのできる権利をいう。憲法16条は、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規約の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためいかなる差別待遇も受けない。」としてこれを保障し、これを制度化した請願法は、請願の方式と提出の宛先について定めるとともに、同法5条で「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。」としている。 

 

 請願権は、政策の提言ないし議会に対する要請を行うこともその内容に含むものであり、民意を国政ないし地方行政に反映させる方法として参政権を補充する重要な政治的権利とされている。請願権の主体は、国民に限らず、外国人及び法人もこれを行使でき(同法2条)、地方公共団体においては、首長、地方議会及び地方議員も請願の対象となる機関であり、地方議会においては地方議員の紹介により請願書を提出することが必要とされている(地自法124条)。   

 

 よって本件決議は、本件教団及び関連団体はもちろん、本件教団の信者らが富山市議会に対する請願に必要な紹介議員を得ることを著しく困難にするものであり、もって同人らの請願権を侵害するものといえる。   

 

 2  思想良心の自由及び信教の自由について      

 日本国憲法19条は「思想良心の自由は、これを侵してはならない。」と定め、同20条第1項前段は「信教の自由は何人に対してもこれを保障する。」としている。   

 

 世界人権宣言を基礎として、その内容を条約化した国際人権(自由権)規約は、その18条1項で、「すべての人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由並びに単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に、礼拝、儀式、行事及び教導によってその宗教又は信念を表明する自由を含む。」としている。そして、その内容は、憲法19条又は同20条1項においても保障されていることは論を俟たない。 

 

 3 法の下の平等について

 日本国憲法14条1項は「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」としている。

 

 国際人権規約(自由権規約)2条は、「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別も」許されないことを規定し、宗教による差別的取り扱いを明示的に禁じているが、そのことは日本国憲法14条1項においても妥当することはいうまでもない。 

 

 地方議会等の地方公共団体の機関が、特定の宗教団体及びその関連団体との関係を遮断することは、特定の宗教団体の信仰、世界観、儀式若しくは宗教活動を理由に、思想良心の自由、信教の自由、請願権について規制し、差別的取り扱いをすることが法の下の平等に違背するものであることは明らかである。  

 

4 まとめ   

 よって富山市議会において本件決議、すなわち本件教団及びその関連団体との関係を遮断する内容の決議を行うことは、一般市民である原告を含む本件教団の信者らの信教の自由と思想信条の自由を侵害するばかりか、民主主義の基盤である政治参画の権利である請願権を剥奪するものであり、かつ、宗教を理由とする差別であって法の下の平等に違背することは明らかであり、併せて、我が国の立憲主義と民主主義の根幹を危うくする憲法違反の違法があるといわざるをえない。  

   

第6 訴えの法律構成  

 1 請求の趣旨第1項(処分の取消しの訴) 

 本件決議が被告富山市に設置された富山市議会による公権力の行使であるところ、それが特定の宗教団体及びその関連団体と市議会議員との関りの一切を断つものであり、本件教団及びその信者らの宗教的活動及び請願権の行使をはじめとする政治的活動の自由を制約し、もって宗教を理由とする差別的取扱いを行うものであることから、それが違法な処分(公権力が法令に基づいて、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定する行為)であることは明らかである。

 

 よって前記のとおり、本件決議の取消し等を求める請願について本件決議を理由に、その固有の主観的権利である請願権、信仰の自由及び法の下の平等を侵害ないし制約された原告は、行政訴訟法3条2項に基づいて本件決議の取消しを求める権利を有する。  

 

 2 請求の趣旨第2項(損害賠償の訴え)  

 国家賠償責任法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずるとする。

 

 本件決議は、地方公共団体である被告富山市が設置した富山市議会(その代表者である富山市議会議長及び本件決議に賛同した市議会議員全員)による公権力の行使であり、それが本件教団を信仰する原告を含む信者である市民の信仰及び信条の自由、その政治参画の方法たる請願権、並びに、法の下の平等に違反する違憲の違法があることを知りて(若しくは、知り得たにもかかわらず漫然とこれを認識しないまま)行ったものであるから、被告富山市は、本件決議によって原告が被った損害について賠償する責任を負う。 

                

第7 結語   

 よって原告は被告富山市に対し、行政事件訴訟法3条2項に基づいて請求の趣旨第1項記載の本件決議の取消し、並びに、国家賠償法1条1項に基づいて請求の趣旨第2項の慰謝料の支払いを求めて本訴に及ぶ次第である。

 

 

証 拠 資 料

 

1 甲1 本件決議(令和4年9月28日)

2 甲2 依頼書(令和4年11月21日)

3 甲3 請願書案(令和4年11月20日)

4 甲4 回答書(令和4年11月25日)

 

付 属 書 類

 

1 訴訟委任状    1通 

2 甲号証(写し) 各1通

 

以上